《福島県景観形成基本方針》

(平成10年10月27日公告)

 

 

前文

第1 景観形成に関する基本構想

第2 景観形成を図る上で重要な地域における景観形成の推進に関する基本的な事項

第3 大規模行為に係る景観形成に関する基本的な事項

第4 公共事業等に係る景観形成に関する基本的な事項

第5 景観形成に係る活動への支援及び知識の普及に関する基本的な事項

第6 その他景観形成に関し必要な事項

 

前文

わたしたちのふるさと福島は、磐梯山、猪苗代湖など、我が国を代表するスケールの大きい自然景観をはじめ、幾多の歴史的・文化的遺産を有し、豊かで優れた景観に恵まれています。

しかしながら、近年の社会経済の変化に伴う都市化の進展や生活様式の変化あるいは機能性や経済性が優先された開発などにより、先人から受け継ぎ、親しまれてきた自然景観や歴史的な町並みなどの景観にも様々な変化が現れています。

優れた景観は、わたしたちにうるおいとやすらぎのある快適な生活環境をもたらし、心の豊かさをはぐくむものであり、また、地域の特性を生かした美しい景観の形成は、地域の魅力を一層高め、文化や産業の振興など地域の活性化にも寄与するものです。

本当の意味での豊かさが求められている今、優れた景観を守り、創り、育てていくことは、美しい福島を創造するため、重要な意義を有するものです。

そして、このような優れた景観は、一朝一夕につくられるものではなく、50年あるいは100年といった息の長い地道な取組みによりはじめて現実のものとなります。

ここに、県民が心を一つにして優れた景観の保全と創造に取り組み、世界に誇りうる美しい県土を築いていくため、福島県景観形成基本方針を定めます。

第1      景観形成に関する基本構想

優れた景観の保全と創造への取組みは、次に掲げる基本理念と推進方法を念頭に、4つの基本目標に基づき推進していきます。

    景観形成の基本理念

    優れた景観の保全と継承

本県の優れた自然景観、歴史的・文化的景観は、多くの県民が、日常生活の中で普段に接し眺めることで親しみや愛着を抱いています。これらの景観は先人から受け継いだ誇りある県民共有の財産であり、一度損なわれると修復困難なかけがえのないものです。

このため、優れた自然景観や歴史的・文化的景観を積極的に保全し、後世へ継承していきます。

    美しい景観の創造

人間が創り出す代表的な景観は、町並みや沿道などの都市的な景観です。これまで、都市の整備に当たっては、機能性や経済性の追求が優先される傾向にありましたが、近年、人々の価値観や生活意識の変化、多様化に伴い、本来の機能性の現れとしてのにぎわいに加え、うるおいとやすらぎのある快適で安全なまちづくりを求める方向に変化しています。とりわけ、街に、ゆとり、うるおい、やすらぎなどの快適性をもたらす重要な要素として、美しい景観の創造が求められています。

このため、にぎわいを生かして魅力的な美しさを演出しつつも、ゆとり、うるおい、やすらぎのある、街全体として調和のとれた美しい景観の創造を図ります。

    地域の活性化につながる個性豊かな景観の形成

景観は、それぞれの地域の自然、歴史、文化などを背景として、永年にわたり、人々の日常生活の営みの中で、守り、創り、はぐくまれてきたものです。

このため、景観形成に当たっては、地域の景観の個性を十分に生かし、地域らしさをはぐくむとともに、地域の人々の自主的な景観形成を促進することにより、地域の連帯感を醸成し、地域の活性化の原動力となりうるような個性的で魅力ある景観の形成を図ります。

    景観形成の推進方法

    パートナーシップによる景観形成

景観は、人々の生活意識や美意識が反映され、また、人々の自主的・主体的な取組みによって創られることから、それを基本としながら全体として調和ある景観形成を長期的視点に立って進めていくことが求められます。

このため、県民、事業者、市町村及び県が、地域の景観に対する共通認識を深め、対等の関係のパートナーとして協働しながら、一体となって景観形成に努めます。

    住民参加による景観形成

良好な景観を形成していくための基本となるものは、景観を創り、支えている県民及び事業者の景観についての意識と行動です。

このため、県民及び事業者が自らの地域における景観形成の重要性を理解し、景観形成に自主的に取り組むための仕組みを構築するとともに、景観形成への問題意識が高く、さらには造けいの深い地域リーダーや住民団体などを支援・育成していきます。また、県民の社会参加の意識の高まりの中でますます多彩かつ活発となっているボランティア活動が、今後の地域づくりにおいて大きな役割を果たすことが期待されていることから、景観づくりの面においても、地域の景観形成を支えるボランティア活動へ参加しやすい環境づくりに努めます。

    総合的・計画的な景観施策の推進

景観形成の対象は、山岳、湖沼、河川、海岸などの自然、そして旧街道、農村集落、田畑、史跡、神社仏閣などの歴史的・文化的資源、さらには道路、河川、庁舎などの各種公共施設や住居、店舗、産業施設などの民間施設など、極めて多岐にわたっています。これらの景観を構成する要素に対して、民間も行政もそれぞれ個別には景観形成への努力を払っており、一定の成果をあげています。

このため、景観施策の推進に当たっては、景観の構成要素間の全体的な調和に配慮するとともに、長期的視点に立って将来の望ましい姿を描きながら、総合的かつ計画的に県土全域を対象とした景観施策を推進します。

    景観形成の基本目標

    「豊かな水と緑の織りなす美しい自然景観を守り、育てる」

本県は、奥羽山脈、阿武隈高地などの緑豊かな山並み、すそ野に広がるふるさとの田園風景、猪苗代湖、阿武隈川などの豊かな水をたたえる多くの湖沼や河川、太平洋に臨む長く美しい海岸線など、豊かな水と緑が織りなす美しい自然景観に恵まれています。このため、これらのかけがえのない美しい景観を損なうことなく、次世代への贈り物として大切に守り、育てていくことが重要です。

とりわけ、磐梯山や猪苗代湖とそれらの周辺地域は、日本を代表する優れた自然景観を有しており、国内外から訪れる多数の観光客に「美しいふくしま」のイメージを強く印象づけています。この地域においては、これまでも、快適な滞在環境を有する質の高いリゾートの形成を目指して、優れた自然環境と調和した景観形成が進められてきました。こうした成果を継承しながら、本県の顔として世界に誇りうる景観形成を推進していきます。

    「歴史と伝統が息づく景観を伝える」

本県には、鶴ヶ城などの歴史の面影を今に伝える城跡、旧街道の松並木、大内宿などの宿場町、白水阿弥陀堂をはじめとする多くの神社仏閣、前沢曲家集落などの農村集落など、地域のシンボルとなっている歴史的資源が随所に見られます。また、陶芸、漆器、酒造などの伝統産業が各地に息づき、それぞれの地域に落着きと奥行きのある情景を醸し出しています。これらの歴史と伝統が息づく景観資源は、地域住民の心象風景であり、心のより所ともなっています。

このような優れた歴史的・文化的景観資源の保存や復元を行い、物語のある地域の景観を創造するなど、歴史と伝統を生かした景観形成を積極的に行い、次世代へ伝えていきます。

    「うるおいとやすらぎが感じられる美しい景観を創る」

近年の都市化の進展などにより、市街地では、周囲の景観と調和しない建築物や広告物が増えるなど、雑然とした個性のない町並みへと変化しつつあります。

都市には、多くの人々が住み、多くの人々が訪れることから、安全性を備えると同時に、残された自然をできる限り生かしながら、街路の緑化、公園、緑地やポケットパークの整備、水辺空間の整備など、うるおいとやすらぎが感じられる快適な美しい都市景観の創出が必要です。また、若者を引きつけるようなにぎわいの演出や、高齢者や障害者に配慮したやさしいまちづくりを進めていく必要があります。一方、圧迫感を与える巨大壁面の出現や、けばけばしい色彩のはん濫などの景観を阻害する要因に適切に対処していくことが求められています。

このため、人々の営為により形づくられる都市の景観形成に当たっては、景観に関連する法制度や事業の積極的な活用、開発行為の適切な誘導を図り、計画的に美しい景観を創出していきます。

    「景観形成を魅力と活力ある地域づくりに生かす」

地域に埋もれている自然、歴史・文化などの優れた景観資源を発掘し、又は地域のイメージを高める新たな景観資源を創り、育てることで、地域らしさを引き出し、輝かせていくことは、今後の地域づくりの方向として重要な視点です。

このため、地域の風土や文化を生かし、あるいはそれと調和した景観形成を展開するなど、景観形成への取組みを地域づくりの一環としてとらえ、我がふるさととして魅力と活力のある景観の形成を図っていきます。

特に、商店街や観光地においては、地域の伝統的な景観資源を活用する一方で、地域イメージにあった新たなテーマ性のある景観形成に取り組むことにより、地域の活性化に結びつくような魅力ある景観を創出していきます。

第2      景観形成を図る上で重要な地域における景観形成の推進に関する基本的な事項

本県の顔となる優れた景観を有している地域や、新たに優れた景観の形成を図る必要がある地域については、景観形成重点地域として指定し、きめ細かく、かつ総合的な景観形成を図っていきます。

    景観形成重点地域の指定に関する基本的な考え方

景観形成重点地域は、次の事項を考慮し、指定するものとします。

    原則として共通の景観特性を有し、一定の広がりを有する地域であること。

    開発動向が顕著で景観特性や景観資源などに著しい影響を及ぼすことが予想されるなど、景観形成に緊急性を有すると認められる地域であること。

    地域住民や関係市町村の十分な合意が形成され、かつ景観形成に関し積極的な取組みが期待される地域であること。

    景観形成重点地域における景観形成の推進に関する基本的な考え方

景観形成重点地域においては、次の事項を考慮し、地域住民や事業者、市町村及び国との連携・協力のもとに、重点的に景観形成を推進します。

    景観形成重点地域基本計画及び重点地域景観形成基準の策定に当たっては、地域の特性、景観資源、主要な眺望地点などを適切に把握するとともに、地域住民、関係市町村などの意向を十分反映させること。

    届出に対しては、景観形成重点地域基本計画及び重点地域景観形成基準に基づき指導又は助言を行うとともに、勧告及び公表の制度の適正な運用を図ること。

    重点地域大規模特定行為の計画段階において、景観への配慮が行われるよう、事前協議の徹底と建築関係団体などとの十分な連携を図ること。

    公共事業等の実施に当たっては、景観形成重点地域基本計画及び重点地域景観形成基準に十分配慮するとともに、当該地域の景観形成に先導的な役割を果たすこと。

第3      大規模行為に係る景観形成に関する基本的な事項

大規模な建築物の新築や土地の大規模な造成などは、地域の景観形成に大きな影響を与えるおそれがあります。このため、大規模行為に対しては、次の事項を考慮し、景観形成重点地域以外の県土全域を対象に、優れた景観が形成されるよう誘導していきます。

    市町村の景観形成に関する基本計画、優良景観形成住民協定などへの配慮を求めること。

    届出に対しては、地域の特性を十分考慮した上で、大規模行為景観形成基準に基づき指導又は助言を行うとともに、勧告及び公表の制度の適正な運用を図ること。

    大規模特定行為の計画段階において、景観への配慮が行われるよう、事前協議の徹底と建築関係団体などとの十分な連携を図ること。

    建築物等自体の美しさの追求ばかりでなく、周辺景観との調和を図り、優れた景観の創造に資するよう指導すること。

第4      公共事業等に係る景観形成に関する基本的な事項

庁舎、学校などの新築、道路の整備、河川の改修などの公共事業等は、大規模なものとなる場合が多く、地域の景観を大きく左右するものです。このため、公共事業等の実施に当たっては、次の事項を考慮しながら、地域における景観形成の先導的な役割を果たしていきます。

また、国、市町村等に対し、公共事業等の実施に当たっては公共事業等景観形成指針に配慮するよう、要請していくものとします。

    公共事業等の実施に当たっては、機能性や経済性だけではなく周囲の景観との調和にも十分に配慮するとともに、高齢者、障害者などへの安全性にも留意しながら事業を推進すること。

    地域の景観形成上重要な公共事業等については、計画策定に当たり地域住民の意見を取り入れるなど、住民参加の機会の確保に努めること。

    国、市町村等が実施する公共事業等との十分な調整を図り、地域として一体となった景観形成に努めること。特に、県土の景観に大きな影響を与えるおそれのある大規模な公共事業等については、計画案段階で個別具体的な調整に努めること。

    公共事業等の実施に当たっては、市町村の景観形成に関する基本計画、優良景観形成住民協定などに配慮すること。

    公共事業等に携わる職員を対象とした公共施設の景観形成のための研修会を開催するとともに、公共事業等の実施に関して景観上の配慮について審査するシステムの整備を図ること。

第5      景観形成に係る活動への支援及び知識の普及に関する基本的な事項

個人及び事業者が所有する建物や緑が地域の景観形成にとって重要な要素となることから、地域の美化・緑化活動など、県民及び事業者の景観形成に関する自主的な活動への取組みを促進するため、次に掲げる施策を講じ、景観形成を推進します。

    優良景観形成住民協定の締結など、県民及び事業者の自主的な景観形成に係る活動が促進されるよう、地元市町村と連携しながら技術的な指導、助言その他の支援に努めること。

    県民及び事業者に対し、先進的な景観形成の取組事例を広く紹介するとともに、景観形成活動に取り組む団体に対して景観アドバイザーを派遣するなど、景観形成についての技術的情報の提供を行うこと。

    県民及び事業者の景観に対する理解を深め景観形成への意識を醸成するため、テレビ、新聞などによる広報、パンフレットなどの配布、フォーラム、ワークショップや講演会の開催など、各種の普及啓発事業を行うこと。

    県民が一丸となって景観形成に取り組むため、“うつくしま、ふくしま。”県民運動の一環として、身近な美化活動や花いっぱい運動などの景観づくり運動を展開するとともに、県民及び事業者の優れた景観形成活動を奨励し、その活動を広く県民に紹介すること。

    県民及び事業者を対象とした景観形成に関する研修会を実施するなど、景観に関する学習、交流、活動の場を提供し、景観形成を先導するリーダーを育成するとともに、県民が景観に関するボランティア活動へ参加しやすい環境づくりに努めること。

    次代を担う子供たちに景観の大切さを認識させ、本県の美しい景観を守り、育てていく意識が育つよう景観を含めた環境教育の推進に努めること。

第6      その他景観形成に関し必要な事項

    市町村の景観形成施策に対する支援

地域単位での景観形成を進め、県土全体でバランスのとれた景観形成を推進していくためには、地域の実情を熟知している市町村の積極的な景観形成への取組みが鍵となります。このため、県は、次に掲げる施策を講じ、市町村の景観形成施策を積極的に支援していきます。

    市町村の景観形成に関する条例の制定を支援すること。

    市町村の景観形成に関する基本計画の策定、当該計画に基づく景観形成施策の実施などを促進するため、景観アドバイザーの派遣や研修会の開催など、必要な支援を行うこと。

    景観形成に関し先進的な取組みを展開している自治体の事例などについての情報の提供などに努めること。

    優良景観形成住民協定の締結の促進

県民及び事業者の地域に根ざした景観形成に係る活動を促進するため、地域住民同士が連帯して自主的に景観形成を図る協定を締結した場合、当該協定の内容が一定の要件に該当し、県土の景観形成に寄与すると認められるものであるときは、知事が優良景観形成住民協定として認定、公表し、その活動を支援していきます。特に景観形成重点地域においては、地元市町村との連携を図りながら、自治会、町内会、商店会などを単位とした当該協定の締結を奨励し、締結の促進に努めます。

    特定事業者景観形成協定の締結の促進

知事が県土の景観形成を図るために必要があると認めるときは、知事は、地域の景観形成に大きな影響を与える規模の事業を営む者と特定事業者景観形成協定を締結し、県民に協定の内容を公表していくものとします。特に、工場、大規模店舗などを営む者、県内の各地において事業を展開し県土の景観に大きな影響を与えると認められる事業者に当該協定の締結を積極的に求め、事業者の協力を得ながら景観形成の推進に努めます。

    既存の建築物等に対する要請

景観形成重点地域において、地域の景観を著しく阻害するような建築物等については、福島県景観審議会の意見を聴取した上で、その所有者に対し、修景などの必要な措置を要請していきます。なお、この要請については、善意の所有者に新たな負担を求めることになるものであることから、支援措置も考慮に入れ、慎重を期しながら行っていきます。

    現行法制度の活用

景観形成に関連する現行法制度は、国土利用計画法、自然公園法、都市計画法、建築基準法、文化財保護法、森林法、福島県屋外広告物条例など多岐にわたっていることから、これらの法制度の適用地域の特性や対象に応じた適切な運用により、優れた景観形成を図っていきます。

特に、景観形成重点地域は、福島県屋外広告物条例の特別規制地域等に指定するなど、福島県屋外広告物条例との緊密な連携を図り、優れた景観を形成していきます。

 

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