ラウンド農ふくしまWeb-センター通信(試験研究・業務)-
令和6年度 試験研究・業務の紹介
畜産研究所では、肉牛の「ゲノミック評価」を実施しています!!
和牛の肉は、美しい「霜降り(サシ)」が特徴ですが、これは先人が何十年もの改良を重ねた努力の結晶です。 牛の改良は、たくさん「サシ」が入る牛を選ぶことを何年も繰り返します。現在も、その歩みは止まることはありません。
さて、福島県では県独自で「ゲノミック評価」を行っています。
みなさんは、「ゲノミック評価」という言葉を聞いたことがありますか?
「ゲノミック評価」とは、牛の遺伝子を調べる最新の方法で、これにより「サシ」が入る牛をこれまでよりも早期に選ぶことができるようになりました。
畜産研究所では、今後とも精度向上のためのデータ収集に努めてまいります。
図 牛のゲノミック評価の流れ
電気柵の適正管理を心がけましょう!
農作物の獣害防止対策として電気柵が知られていますが、除草等の管理作業の不備によって十分な効果を発揮できていない事例も多くあります。
そこで、実際に設置されている電気柵の周辺環境や、雑草等の接触により漏電した際の電圧を調査しました。その結果、電気柵周辺の環境や漏電によって、獣に侵入されやすい状況になることがわかりました。
日々の適正管理を心がけましょう!
図1 雑草による漏電の状況 図2 通電時(本体出力9.9kV以上)と漏電時の電圧の変化
※赤点線:電気柵の適正電圧目安
キュウリの土壌伝染性病害虫への対策 隔離床養液栽培システム
県内のキュウリ栽培では、ホモプシス根腐病(ねぐされびょう)などの土壌伝染性病害虫の被害が大きな問題となっています。
そこで、土壌伝染性病害虫の対策が必要ない栽培方法を開発しました。
それは、「隔離床養液栽培システム(注1)」で、県内の夏秋作型(注2)において土耕栽培と同等以上の収量(20t/10
a)を確保できることがわかりました。
生産者向けのマニュアルを、農業総合センターホームページで公開していますので、ご活用ください。
図 キュウリ隔離床養液栽培の様子
会津地域の果樹(リンゴ・カキ)の発育予測情報を公開しています
会津地域研究所(所在地:河沼郡会津坂下町見明)に定植されているリンゴ「ふじ」、カキ「会津身不知」を基準樹として、2023年(令和5年)に発育予測モデルを開発しました。
果樹研究所における凍霜害対策に関する成果と合わせて活用することで、効率的な防霜対策の実施が期待できます。
予測結果は、県ホームページ(主要な農作物の生育情報)で公開しておりますので、参考にしてください。
ただし、春季が高温で経過した場合や、降霜があった場合などには予測結果が異なる場合があります。また、会津地域研究所における発育予測モデルのため、地域や樹種、樹齢が異なる果樹園では結果が異なる場合がありますので、ご注意ください。
図1 発育予測モデルイメージ 図2 リンゴ「ふじ」における予測結果
ブドウのGABA(ギャバ)は果肉内壁部に存在する
GABA(γ-アミノ酪酸)という機能性成分をご存じですか?
野菜や果物に含まれるアミノ酸の一種で、精神的ストレスの緩和や、睡眠の質の改善に効果があることが報告されています。
流通加工科では、本県育成ブドウ品種の「あづましずく」のほか、「巨峰」、「ピオーネ」についてGABAが果実のどの部位に分布しているのかを調べました(この分析には、福島大学のイメージング質量分析装置を使用しました)。
その結果、ブドウのGABAは、果肉の「内壁部」と呼ばれる中心部に多く分布していることがわかりました。
ブドウ以外にも、県産農産物の機能性成分を調査し、付加価値を高めていく研究を進めています。
検出強度:弱強
図 「あづましずく」のGABAの分布(左:縦断面、右:横断面)
浜通りにおける「コシヒカリ」の乾田直播栽培
乾田直播栽培とは、従来の移植栽培と異なり、ほ場が乾いた状態で種子を直播きする方法で、育苗や代かき作業の削減や、作業時間の短縮など、省力化につながる栽培技術として期待されています。
近年、浜通り地域では、ほ場の大区画化や担い手への農地集積が進んでおり、省力化が見込める乾田直播栽培の導入が広がっています。
そこで、本県主力の晩生品種である「コシヒカリ」での乾田直播栽培の導入について試験を実施しました。2021年から2023年の3年間の試験では、いずれの年も成熟期を迎え、10a当たり9俵以上の収量を確保できました。
図1 種子の直播きの様子 図2 成熟期の様子
夏秋キュウリ栽培の作業性改善する「つる下ろし」栽培
本県は、キュウリの生産が盛んであり、夏秋キュウリ(7~9月)の収穫量は日本一です(令和4年度)。
県内で広く普及している一般的なキュウリの整枝・誘引作業は、経験に基づく判断が必要で、習得までに多くの時間を要します。
そこで、新規就農者や、パート従業員などの栽培経験の浅い被雇用者でも簡易に作業ができる整枝法の開発に取り組み、これまで所内のパイプハウスにおいて「つる下ろし」栽培の作業に関する研究成果が得られました。
令和6年度からは、現地の大規模ハウスにおいて得られた技術の導入効果を検証しています。
図 つる下ろし栽培の様子 研究成果はこちらから
阿武隈中山間地域でもピーマンのトンネル栽培で所得向上が図れます
阿武隈中山間地域に位置する川内村では、令和4年度からピーマン栽培が始まっています。
さらに所得向上を目指して、一般的な露地栽培よりも収益性が高いと言われるトンネル栽培の実証試験を実施しました。
川内村でも収穫時期を露地栽培より2週間ほど早めて、単価の高い時期に多く出荷することができ、所得を増やせることがわかりました。
図1 トンネル栽培の様子
表1 トンネル栽培と露地栽培の年間所得の差(10a当たり)
「イネ初冬直播き栽培」に取り組むためのポイント
「イネ初冬直播き栽培」は、11月ころの初冬の水田にイネの種子を直播きし、そのまま土中で越冬させ、翌春に発芽・苗立ちさせる栽培方法です。そのため、春の繁忙期の作業を大幅に軽減できるメリットがあります。
一方で、長期間湿潤条件の水田に種子が置かれるため、苗立ち率が低下するリスクがありますが、冷蔵保存した前年産種子を用い、鳥害対策としてチウラム水和剤(商品名:キヒゲンR-2フロアブル)を種子に塗沫処理することで、目標苗立ち率50%を確保することができます。
また、施肥は冬期の肥料成分の流亡を防ぐため、播種前にリン酸、カリ施用と同時に、シグモイド型の肥効調節型肥料を窒素成分で1kg/a施用します。これらの技術で、精玄米重50kg/aを確保できます。
ミスト噴霧でトマト「りんか409」の裂果を減らすことができます
県内の夏秋トマト産地では、夏期の高温による収量や品質の低下が問題となっています。
そこで、トマトのハウス内にミスト装置(霧状の水を噴霧するもの)を設置して、ハウス内の
環境やトマトの収量・品質に及ぼす効果を調査しました。
ミストを噴霧することでトマト(品種:「りんか409」)の裂果の発生を減らすことができました。
図1 トマト裂果状況 図2 ミスト噴霧装置
「鳥獣被害対策にICT機器をどう使う?」導入支援マニュアルを作成しました
鳥獣被害対策には、見回り活動や状況確認に多くの人手が必要であり、鳥獣被害の特定に時間がかかることがしばしばです。
農業総合センターでは、ICT機器である通信型センサーカメラ及びインターネット上で管理できる地図アプリケーション(GIS(地理情報システム))を活用することで、省力化と時短を目指しました。
通信型センサーカメラを使うことにより、画像確認時間が削減でき、また、地図情報を簡易にデータ化し編集できました。
導入支援マニュアルは、農業総合センターHPにて公開していますのでご確認、ご活用ください。
データベースを活用した経営シミュレーションツールを作成しました!
経営・農作業科では、新規就農者や農業者の品目選定や、新規品目の導入等において活用できる「経営シミュレーションツール*1」を作成しました。
このツールは、メニューから経営面積、現在の労力、品目等を選択して実行すると、利益を最大にする品目の組合せを算出します。Microsoft Excel*2をお持ちであれば、センターのホームページより無料でダウンロードして使用することができます。
現在の労働力や所有する機械を用いて経営の柱にする品目を探したい!新規品目を導入して収益を向上させたい!方は、是非ご活用ください。
*1 ツールは現国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が作成した線形計画法による試算プログラム「XLP」を利用しています。
*2 Microsoft Excelは2016以降のバージョンを推奨します。
図1 シミュレーションの流れ
図2 シミュレーションモデル(労働時間が上限に近づくと、色が濃く赤くなります)
ナシジョイント栽培における施肥量を3割削減できる施肥方法
ナシ栽培には、年間10a当たり窒素成分で20kg必要です。通常、年に2~3回に分けて施肥を行っているため、農業者の作業負担が大きくなっています。そこで、肥料散布回数や量を減じる方法を検討しました。
ナシ「あきづき」のジョイント栽培において、毎年9月の基肥を肥効調節型肥料とし、慣行の施肥量から窒素成分当たりで3割削減しても、慣行と同等の生育と収量を確保できることがわかりました。
ジョイント栽培のナシ棚 ナシの収量と果実重(2021~2023年)