【ろうどうコラム】老舗企業から学ぶ経営の在り方
印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月15日更新
H24.11.22 老舗企業から学ぶ経営の在り方 |
労働委員会 使用者委員 佐藤 卓也 |
2008年9月に発生した世界金融危機後、短期的な目先の利益を優先するグローバルスタンダードの米国型経営モデルが事実上破綻して以来、新たな有力な経営モデルの一つとして老舗企業に対する関心が高まっている。 老舗企業に対する厳密な定義はないが、老舗企業研究の大半が、創業・設立から100年を経過した企業としている。2010年現在、帝国データバンク調べで、全国に2万1009社あると言われ、その数は世界一と言われている。因みに欧州6千社、米国8百社といわれている。都道府県別にみると老舗企業の比率が最も高いのが、京都府の3.72%(949社)、東北では山形県が3.39%(446社)で3番目。福島県は2.58%(523社)で10番目に多い。 100年以上存続してきた老舗企業は、戦争や地震、台風などの自然災害、不況など多くの困難を乗り超えて今日に至っている。老舗企業の経営からは数多くの知恵を学ぶことが出来るし、今後の企業経営の参考になることも多いと思われる。 東京商工会議所中央支部が平成20年度に行った調査では、幾多の困難を乗り越え、長期間経営を継続してきた老舗企業の強さの源泉として、 1 のれんを創る(「らしさ」を生み出す) 老舗企業には、他の会社とは異なる「その会社らしさ」が息づいており、それこそが「のれん」となって顧客へアピールする魅力となっている。その「らしさ」を生み出す基盤には、会社の在り方や商いの仕方などに関する経営理念があり、そしてその理念が浸透、共有化されているからこそ、老舗企業はブレることのない経営を続けている。 2 商いを創る(強みを創り込む) 長年にわたって経営を続けて来た老舗企業は、自社の強みを「信用力」だとする一方、弱みとして「価格競争力」を挙げる企業が多い。老舗企業には、価格以外で勝負できる強みがある。 3 商いを創る(変革を仕込む) 老舗企業が現在も経営を続けているのは、幾多の環境の変化に絶えず対応してきたからである。そうした老舗企業が創業から変えずに守ってきたものは、経営理念やサービスといった企業の中核となるものである。 一方で屋号や取扱品などは環境に応じて適宜変化してきたことがわかる。老舗企業は守るべきところは守り、それでいて時代に取り残されることがないよう絶えず変化し続けている。 4 関係を創る(固定客を創る) 老舗企業は、「顧客満足の実現」を重視している。顧客から愛され続けるよう、知恵や工夫を凝らし、個性ある商品・サービスを最高の状態で提供し続けているからこそ、その顧客は固定客となるのである。もちろんそのためには、自社の力だけでなく、仕入先等との関係づくりも重要である。 5 関係を創る(顧客と学び合う) どんな企業でも顧客に対し、一方的に自己主張するだけではその信頼を得ることは出来ない。絶えず顧客の声に耳を傾けて、顧客から学ぶことも求められている。老舗企業は、顧客の声を傾聴し、顧客に必要な情報を提供することで、顧客にも学んでもらうといった、ともに学び合う関係を創っている。 6 人を育てる(従業員の育て方) 中小企業においては、限られた人材を活かすことは至上命題である。また製品の品質の維持を左右する職人はねその技術の伝承や育成に時間がかかることから、様々な工夫や取り組みを余儀なくされることも多い。老舗企業経営者も「従業員は人財」といい、「適材適所」で活かす工夫を行っている。 7 人を育てる(後継者の育て方) 老舗企業経営者は、代々受け継いできた事業をさらに繁栄させるという意欲と、自分の代で事業を終焉させることなく、次の代へと受け継がせていくという使命感とを併せ持っている。このため、後継者を育成することも自分の大きな仕事であるとの意識が強く、企業存続の肝となる後継者育成についても長期的な視点で取り組んでいる。 8 地域性・地縁を活かす 老舗企業の経営者の多くは、地縁に基づいたつながりや地域の経済団体のような世代や業種の壁を越えた活動に参画している。こうした交流の場やネットワークづくりは、経営者としての悩みを相談できるメンターを外部に見つけることにもなる。長い間の積み重ねで築かれてきたネットワークは、利害を超えた強い信頼関係となって、正確で総合的な経営判断の助けとなっている。 以上を挙げている。 老舗企業といえば、昔ながらの経営をしているとうイメージも強いが、100年以上の歳月を伝統を守る経営を続けながらも、変えるべきものと変えてはいけないものとのバランスをとりつつ、企業経営の軸がぶれることなく身の丈に合った堅実な経営をし、新たな価値の創出などにも積極的に取組んでいるような経営の革新を持続的に行ってきた企業でもある。 企業には、社会的責任を果たしつつ、ゴーイングコンサーン(事業継続体)として存続させていくことが求められる。経済のグローバル化が進行し、日本的経営の見直しが叫ばれている折、幾多の危機を乗り越えてきた老舗企業経営者達の先人の知恵と経験に学ぶことの大切さを思うこの頃である。 |