【2017年5月22日(月曜日)】 Vol156
目次
- リレーエッセイ
県教育委員会委員 高橋 金一(たかはし きんいち) - 日々の思い
義務教育課長 佐藤 秀美(さとう ひでみ) - お薦めの一冊コーナー
- 読者投稿欄「みんなの学舎」
高校教育課県立高校改革室 指導主事 阿部 洋己(あべ ひろき) - お知らせ
- 県教育委員会からのお知らせ
- 県文化センターからのお知らせ
- 県立図書館からのお知らせ
- 編集後記
教育総務課長 高橋 洋平(たかはし ようへい)
リレーエッセイ
「学校の特色」
県教育委員会委員 高橋 金一(たかはし きんいち)
今年4月、小高工業高校と小高商業高校を統合し、小高産業技術高校が開校しました。同校は、文部科学省から、県内では初のスーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)の指定を受け、関係機関との連携を通して、ロボット工学など新たな産業に対応できるエンジニアや、地域活性化に向けて提言できるビジネスプロフェッショナル等、地域復興を担う人材を育成する学校としての役割を期待されています。教育委員の間では、ロボット工学と農業をマッチングさせれば、さらに震災復興に役立つのではないかという意見が交わされております。
ふたば未来学園高校に続いて、特色のある、将来が楽しみな学校ができたという思いがしております。
ところで、教育委員の役割の一つに、県立学校の創立記念式典に出席してお祝いの挨拶をするというものがあります。
昨年秋、私は、福島明成高校の120周年記念式典に招かれ、挨拶をさせていただきましたが、その折、初めて知ったことがありました。福島明成高校は、1896(明治29)年に福島県蚕業学校として創立され、その初代校長は外山亀太郎という方でしたが、この先生は、植物で実証されていた「メンデルの遺伝の法則」を、1906(明治39)年、世界に先駆けて
動物で実証した方だそうです。その動物というのはもちろん蚕です。先生がその研究により生み出した蚕は、世界に誇る日本の蚕糸業の礎となりました。世界で初めてハイブリッド品種を実用化したのが彼だったのです。この功績で、1915(大正4)年、外山博士は、当時米国で活躍していたあの野口英世博士とともに、帝国学士院賞を授与されました。
福島明成高校の前身が福島農蚕高校であるということは、知っておりましたが、同校がこうした優秀な人物を校長として開校されたことは今回初めて知りました。明治政府の教育にかけた意気込み、福島県の養蚕に対する期待度を垣間見る思いがしました。同校は、生産工学科という学科を持っておりますが、このような創立以来の伝統が脈々と受け継がれていることを感じました。
県内には定時制を含め93校の県立高校がありますが、それらも以上の3校に負けず劣らずの個性、特色を持った学校だと思います。
教育委員としての仕事ではありませんが、最近、私は「昭和の郡山」と題する写真集を作成するという事業に携わり、郡山市内の高校の昭和の姿に関する写真を集めるという作業を担当しました。
この作業に先立って、昭和期における郡山市内の各高校の沿革を改めて確認したところ、戦後、新制高校が発足する際に各地のニーズに合わせて様々な学校が創られ、昭和26年当時には、現在の郡山市の市域に分校も含め、9校の高校が存在していました。それらが統廃合され、現在は8校となっています。こうした経過をみると戦後の混乱期における教育に対する情熱というものを感じます。
写真の収集については各校のご理解の下、暖かいご協力を頂戴することができました。ただ肝心の写真の保管については、卒業アルバムや、創立記念事業の際に作成された記念誌などの資料はもちろん保管してあるものの、それ以外の資料の系統だったとりまとめについては学校ごとにまちまちであるという現状でした。
ところで、それぞれの学校にどのような歴史があり、どのような特色があるのかを知る機会というのがどれだけあるでしょうか。新聞やテレビで学校の活躍が報道される機会はあるでしょう。ただそれも、報道の時点における、特定の学校の活動の一端がわかるだけで、その学校全体の姿を知るというには至りません。県内の高校のすべてを比較したりはできないでしょう。
自らの未来を切り開いて行く力を教育することが求められ、また、職業教育の重要性が強調されている昨今、義務教育を修了し、高校へ進学する際の学校選択は、さらに重要になってくるでしょう。その時、そこに行けば県内の高校の情報が一覧できるという場所があれば、進路選択に役立つのではないでしょうか。もちろんオープンスクールに行ったり、学校案内を取り寄せたりすることによって、学校の情報を収集することは可能です。しかしながら、それにも限りがあります。インターネットから検索して情報を得るにしても、自分の関心のある学校でなければ、情報にたどり着くことはできないでしょう。これはアマゾンで本を購入することと、書店や図書館で実際に手にとって本に出会うこととの比較を考えれば、その違いは明らかだと思います。現状では、全く知らない学校の情報に出会うことはできないでしょう。
もし、県内の学校の情報や教育の歴史を系統的に整理し、気軽に触れられるような、いわば教育博物館のような施設があれば、生徒たちの進路選択のよい参考になるのではないか、特色ある県内の学校を比較検討するための絶好の場になるのではないか、教職員あるいは教育関係者、そして一般の方にとっても、かつての福島県民の教育にかける情熱、先人たちの努力の跡を知ることによって、よりよい教育を考える機会を提供できるのではないかという思いを抱くようになりました。そこに行けば、福島県の教育のすべてがわかるという施設の必要性を感じたという次第です。
どうでしょう。ふたば未来学園高校に続き、小高産業技術高校が誕生したことを契機に、福島県の教育を一覧できるような施設を考えてみては。
日々の思い
「忘れられない授業」
義務教育課長 佐藤 秀美(さとう ひでみ)
今から20年余り前、私が4年生を担任していたときのことです。国語の時間のA子の発言が今も忘れられません。
「この話は、続きがあるような終わり方で、なんだか気になります。でも、これでこれは終わりなんじゃないでしょうか。続きを考えたいような気がするけど、やっぱりこの終わり方が一番いい。だから、続きを書いちゃいけないと思います。」
研究公開を控えた一週間ほど前のことでした。当時、私は国語の教科書に掲載されている物語だけを扱うのではなく、その物語を含む一冊の本を丸ごと教材とする単元を構想していました。当時の自分としては渾身の思いを込めた単元でした。
その授業の一場面でのこと、終わりが省略されているかのような物語の続きを想像して書く活動に、子どもたちは真剣に鉛筆を走らせていました。
その時のA子の発言でした。
続き話を書くという活動に、普通、子どもたちは意欲的に取り組むものです。しかし、A子は「先生に言われたとおりに活動する」のではなく、「先生の指示であっても自分自身で活動の意味を考えた」のです。A子の発言はまさに本質を突いていました。
私たちがよく用いる「普通」などという子どもは存在しないのです。自分の教材研究や実態把握の甘さを、それ以上に指導観の浅はかさを思い知らされた瞬間でした。子どもに教えられて教師は育つのだということを改めて実感させられた出来事でもありました。
私たちは「授業は学校の命」、「教師は授業で勝負する」などと先輩から教えられてきました。一方、文部科学省が過日公表した教員の勤務時間の状況などを踏まえれば、「子どもと向き合う時間がない。授業に力を注ぎたくてもそれができないのが現状だ。」という先生方の叫び声が聞こえてきそうです。多忙化を解消するための知恵と努力が求められているのは言うまでもありません。しかし、教師が子どもと向き合う最も大切な場が授業、子どもはもちろん教師をも育ててくれる場が
授業だと思うのです。ついぞ満足のいく授業ができなかった私ですが、今もそう信じています。
この4月、県教育委員会では「授業スタンダード」をすべての小・中学校の先生方にお配りしました。その表紙に次のようなメッセージを記しています。
「東日本大震災及び原発事故を経験した本県だからこそ、困難な課題に対して、多様な他者と協働しながら粘り強く取り組み、最適解を見いだすことができる力を子どもたちに育む必要があります。その力を育む場が、日々の『授業』であることは論をまちません。子どもたちが、課題に主体的に向き合い、一人一人がよさを発揮しながら解決し、自信を深め、また新たな課題を見いだし解決しようとする……。こうした授業の積み重ねが、よりよい社会と幸福な人生の創り手を育てることにつながるのだと考えます。(後略)」
授業は、子どもと教師によってつくられる極めて創造的な営みです。県内のすべての学校、教室で、素敵な授業が展開されることを心から期待しています。
お薦めの一冊コーナー
このコーナーでは、福島県立図書館司書の「お薦めの一冊」を御紹介します。
『ゲノム編集とは何か「DNAのメス」クリスパーの衝撃』(講談社現代新書)
小林 雅一/著 講談社 2016
2012年ごろ、ゲノム(遺伝子情報)を、ワープロで文章をカット&ペーストするかのように操作できる「クリスパー・キャス9」という画期的な技術が開発されました。この技術は、動物や植物のDNA操作だけでなく、人間に対しても病気の治療のほか、様々なところに適用されようとしています。
私たちの暮しに多大な影響もたらすこの最先端技術のインパクトについて、基礎から学んでみませんか?
福島県立図書館
→https://www.library.fks.ed.jp
読者投稿欄「みんなの学舎」
「先輩の言葉」
高校教育課県立高校改革室 阿部 洋己(あべ ひろき)
今でも忘れられず、思い出す言葉があります。それは、私が中学校を卒業して、高校に入学する前の春休みの3月下旬に、千葉県松戸市の叔母の家に遊びに行く時のことですから、今から35年以上昔のことです。夏休みなどの長期の休みの時には、一人で叔母のところに遊びに行き、そこを拠点に東京で博物館や本屋などを巡ってくるのがとても楽しみでした。
まだ、東北新幹線の開通していなかったJRになる前の国鉄の時代です。福島駅から上野駅までの東北本線の急行列車は、4人掛けのボックス席で、その時も、一人で自由席に乗りました。車内は、とても混雑していたことを覚えています。
私の席の前には、福島市内の高校を卒業して東京の私立大学に進学されるという男性の方が座っていました。長い列車の移動時間の間に、どちらからともなく会話が始まり、高校生活のこと、大学入試に向けた受験勉強のこと、たくさんの示唆に富む話を聞かせてもらいました。その中でも、本を読むことの楽しさや大切さに、高校生活の途中から気づいたこと、何より「卒業までに、僕は100冊も読んだんだ。」と言われた言葉が今でも心に残っています。
その後、高校に入学した私は、あの時の言葉を思い出しながら、高校生活のスタートからがんばれば、どれだけ読めるものかと、とりあえず100冊突破を当面の目標にして、文庫本を中心に次々に本を読んでいきました。お名前も聞かず、その後もお会いする機会はなかったのですが、偶然ご一緒した人生の先輩からのお話は、私の高校生活に大きな影響を及ぼす、忘れられないものとなりました。
もし、叶うのなら、読んだ本のことについて等を報告して、お礼を伝えたい。今でも大切な想い出です。
当時読んだ本を思い起こすと、いろいろと浮かんでくる書名の中でも、夏目漱石の後期『三部作』が印象的です。他にも、ジャンルを問わず、山本有三、筒井康隆なども記憶に残ってます。おそらく、人と人との関わりあいや、一見すると全く関係のなさそうな事象が、めぐり巡って絡んでくるところが、とても興味深く、鮮明に浮かんでくる作品に、人生の難しさや複雑さだけでなく、その豊かさや素晴らしさも、学べたからだと思います。
今にして思えば、そのことが、教職を志すことに繋がったのかもしれません。
お知らせ
小学校の校庭から、一生懸命練習に励む鼓笛隊の楽音が、風に乗って聞こえてきます。運動会、パレード、委譲式・・・。みんなでやり遂げた喜びは、 想い出となって、大人になった今でも心に残っています。
さて、ここからはお知らせコーナーです。
県教育委員会からのお知らせ
「学校自慢コーナー」原稿募集について
福島県教育委員会では、県内の公立小・中・高・特別支援学校の学校自慢を募集しています。
(1)ホームページ掲載用原稿について
A4判(様式1)に準じて作成してください。各学校における特徴的な取組み、または、県民の方に周知したい取組み等を御紹介願います。
原稿に写真を掲載する場合は、「著作権及び肖像権に関する証明書」(様式2)を提出願います。
(2)メールマガジン掲載用原稿について
原稿(様式1)の「取組みの概要」から掲載しますが、改めて作成する場合は150字程度の紹介文を作成願います。詳しくは、福島県教育委員会のホームページを御覧ください。
福島県教育委員会
→ http://www.pref.fks.ed.jp/school/fukushimamap.html
福島県文化センターからのお知らせ
「県文化センター感謝祭プレイベント」
福島市にサテライト校を置き、第63回全国高等学校演劇大会出場を果たした相馬農業高等学校飯舘校演劇部の壮行公演を開催します。また、上演前に小高産業技術高等学校作成のアニメーション「Our trajectory ~きらめく未来へ~」を上映します。
(1)高校演劇全国大会出場記念公演『-サテライト仮想劇-いつか、その日に、』 相馬農業高等学校飯舘校演劇部
飯舘校が村内に戻る時を想像する主人公ハルカと友人サトルを中心に、サテライト校に通う高校生が、自分ではどうしようもない現実と向き合い、乗り越えようとする姿を丹念に描いた作品を上演します。
(2)「Our trajectory ~きらめく未来へ~」 小高産業技術高等学校
今年の春の統合で「小高産業技術高等学校」となった
小高商業高校と小高工業高校の生徒たちが若い力で小高区の魅力を伝え、 復興を少しでも加速させようと福島ガイナックスと共に、福島県教育委員会の支援事業を活用して作成した一本のアニメーションを上映します。
日 時:平成29年6月10日(土曜日)13時30分開演(13時00分開場)
場所:とうほう・みんなの文化センター(福島県文化センター)小ホール
入場料:無料(要整理券、1人4枚まで) ※県文化センター窓口にて配布中。
問合せ先:福島県文化センター 文化推進課 電話024-534-9191
県立図書館からのお知らせ
[イベント]初夏の朗読会
日 時:平成29年6月4日(日曜日)
時間:14時00分~15時30分(90分)(開場13時30分)
場所:福島県立図書館 講堂
出 演:菅原美智子さん(RFCアナウンサー)
原孝江さん(元FTVアナウンサー)
原國雄さん(元FTVアナウンサー)
柿崎順子さん(元FTVアナウンサー)
高橋雄一さん(元FTVアナウンサー)
演 題:「親知らず」(重松清∥著)、
「モッコウバラのワンピース」(綾瀬まる∥著)、
「老いの夢」(佐藤愛子∥著)
「朧夜」(藤沢周平∥著)
高橋雄一の「朗読ワンポイント」(参加無料、申込不要)
[展示]初夏の朗読会
日 時:平成29年6月2日(金曜日)~7月5日(水曜日)月曜日休館
時間:9時00分~19時00分(土日祝は17時30分まで)
場所:福島県立図書館 展示コーナー(観覧無料)
[講座]ふくしまを知る連続講座(1)「縄文土器から探る地域間交流」
日 時:平成29年6月18日(日曜日)14時00分~15時30分(90分)
場所:福島県立図書館 第一研修室
講 師:三浦 武司 氏(県文化財センター白河館[まほろん]専門学芸員)
内 容:縄文時代中期の土器や石材、またはその測定値などから読み取ることができる当時の地域間交流や、縄文時代の暮しについて解説します。(事前申込不要・参加無料)
県立図書館
→企画管理部 電話024-535-3220
→ https://www.library.fks.ed.jp
編集後記
ここ数年の教育心理学や教育経済学における、世界的トレンドは、「非認知能力(Non cognitive skills)」の研究だと思います(とっても分かりにくい言葉ですが…)。知能指数(IQ)などの認知能力に対して、これまで数値化することが少々難しかった「自制心」「意欲」「感謝の気持ち」「楽観性」「目的意識」などの能力の重要性を説くものです。そして、認知能力よりも、
非認知能力こそが将来の年収など社会的・経済的成功に強く影響しているという研究結果が多数報告されているのです。
アンジェラ・ダックワースという米国の研究者は、この分野の売れっ子になっていて、非認知能力のうち「GRIT(やり抜く力)」に注目し、この力を「情熱」と「粘り強さ」とに分解しています。成功者はその才能が注目されがちですが、実は当たり前の努力を意欲的に継続できる力こそが、大きな成功に結び付いているというのです。我が国の学力の要素のひとつとして、「関心や意欲、態度」を重視してきたわけですが、この「粘り強さ」という観点が科学的に提示されたことは、私は今後の学力観にも影響があるものと考えています。
このような見えない力を「見える化」しようとする野心的な研究は、まだまだ続くでしょう。悩ましいのは、「どうやったら非認知能力を伸ばせるか」が、現状ではあまり解明されていないことです。これまでの研究で分かっているのは、非認知能力は「多様な人に囲まれて育つ」ということです。つまり、インターネットや本を読むだけでは身にならず、家族や教員、友人、さらにはナナメの関係にいる地域の大人との関係性の中で育まれる力なのです。
最先端の科学研究が戻ってくるのは、結局は「人」だということです。「教育は人なり」。この教育の基本は科学研究がいかに進もうと、変わらないのではないでしょうか。一人一人の子供に対して、一人の人間として我々がいかに関われるかが、非認知能力の育成においても問われているのだと考えます。
教育総務課長 高橋 洋平(たかはし ようへい)